■ 第五話 「すれちがい」
「私、聞いてない!」
松下の研究室に入ると、来客があるようで松下博士はに静かにするようにジェスチャーした。部屋の奥から「出直しましょうか」という声がした。男の声だった。
「私、大学院を出たら博士の研究を手伝うって言ったじゃない!」
松下は客人を気にしながら、の勢いを止めようと必死だった。
「でも、お前の研究も貴重なものなんだ。ちゃんとした設備が整ったところでと思って……」
「私の研究なら博士を手伝いながらでも出来るよ!」
そう言うと、松下は眉を吊り上げた。
「俺の研究は、自分の研究の合間に出来る程度のもんだって言いたいのか」
は自分の失言を詫びようと博士の袖を掴んだ。
「違うわ!」
だがその手を剥がすと、松下博士はに背を向けてしまった。
「部屋に戻りなさい」
「ねえ、私博士に恩返しがしたいの、お願い!」
「とりあえず、この話は後だ。自分の部屋に戻っていなさい」
ぴしゃりとそう言うと、松下はすがりつくを制して部屋の奥に戻って行った。
「博士、ねえお願い聞いて!」
は叫んだが、松下は戻ってきてはくれなかった。
自室に戻ると、資料の入った封筒を壁に投げつけはデスクに突っ伏して泣いていた。自分が隣の州の大学に行くのさえ渋った松下が、まさか自分を他の研究所にやるなどとは思っていなかったため、にとってこれは大きな裏切りに思えた。
「やっと役に立てるのに!」
は拳で机を殴った。机と一体になったコンピューターが衝撃で小さな警報を鳴らした。
「うるさい!」
警報が止まると、はまた泣き始めた。するとまたピーっという電子音がして、はイライラと顔をあげた。
「なによ、うるさいって言ってるじゃない!」
だが今度の音は止まらなかった。仕方なくコンピューターを覗くと、『メッセージ一件』という表示が出ている。どうやらメールが来ていたようだ。いま喧嘩した松下が送るはずなどないし、どうせ栗田だろうとはメッセージを開いた。
「あれ? 名前がない」
差出人不明のまま届くなどということは、セキュリティ上ありえないことなのだがとは首をかしげ、まさかウィルスではと冷や汗をかいた。しかし、本文を読んで彼女の顔色が変わる。
『クローゼットを見てごらん』
は振り返り、確かに備え付けてあるクローゼットの扉を見た。
「え、なに。気持ち悪い」
恐る恐るクローゼットに近づく。クローゼットのドアに手を掛けた瞬間、爆弾という言葉が思い浮かんでぞっとした。だがもし、いたずらメールならこんなことでびくびくするのは馬鹿らしい。
は意を決してクローゼットを開けた。
「あ、うそ!」
思いも寄らない光景が広がった。は満面の笑みになり、クローゼットの中に入っていたものを取り出すと部屋を飛び出した。
松下の研究室に入ると、来客があるようで松下博士はに静かにするようにジェスチャーした。部屋の奥から「出直しましょうか」という声がした。男の声だった。
「私、大学院を出たら博士の研究を手伝うって言ったじゃない!」
松下は客人を気にしながら、の勢いを止めようと必死だった。
「でも、お前の研究も貴重なものなんだ。ちゃんとした設備が整ったところでと思って……」
「私の研究なら博士を手伝いながらでも出来るよ!」
そう言うと、松下は眉を吊り上げた。
「俺の研究は、自分の研究の合間に出来る程度のもんだって言いたいのか」
は自分の失言を詫びようと博士の袖を掴んだ。
「違うわ!」
だがその手を剥がすと、松下博士はに背を向けてしまった。
「部屋に戻りなさい」
「ねえ、私博士に恩返しがしたいの、お願い!」
「とりあえず、この話は後だ。自分の部屋に戻っていなさい」
ぴしゃりとそう言うと、松下はすがりつくを制して部屋の奥に戻って行った。
「博士、ねえお願い聞いて!」
は叫んだが、松下は戻ってきてはくれなかった。
自室に戻ると、資料の入った封筒を壁に投げつけはデスクに突っ伏して泣いていた。自分が隣の州の大学に行くのさえ渋った松下が、まさか自分を他の研究所にやるなどとは思っていなかったため、にとってこれは大きな裏切りに思えた。
「やっと役に立てるのに!」
は拳で机を殴った。机と一体になったコンピューターが衝撃で小さな警報を鳴らした。
「うるさい!」
警報が止まると、はまた泣き始めた。するとまたピーっという電子音がして、はイライラと顔をあげた。
「なによ、うるさいって言ってるじゃない!」
だが今度の音は止まらなかった。仕方なくコンピューターを覗くと、『メッセージ一件』という表示が出ている。どうやらメールが来ていたようだ。いま喧嘩した松下が送るはずなどないし、どうせ栗田だろうとはメッセージを開いた。
「あれ? 名前がない」
差出人不明のまま届くなどということは、セキュリティ上ありえないことなのだがとは首をかしげ、まさかウィルスではと冷や汗をかいた。しかし、本文を読んで彼女の顔色が変わる。
『クローゼットを見てごらん』
は振り返り、確かに備え付けてあるクローゼットの扉を見た。
「え、なに。気持ち悪い」
恐る恐るクローゼットに近づく。クローゼットのドアに手を掛けた瞬間、爆弾という言葉が思い浮かんでぞっとした。だがもし、いたずらメールならこんなことでびくびくするのは馬鹿らしい。
は意を決してクローゼットを開けた。
「あ、うそ!」
思いも寄らない光景が広がった。は満面の笑みになり、クローゼットの中に入っていたものを取り出すと部屋を飛び出した。