ツメアカ

■ 第十二話 「変装」

「何言ってるんだあんた」
 予想していた返答には落胆したが、引き下がっていられなかった。
「え、えっと。そうだ、角松さん! 中国語は喋れます?」
 角松は一瞬目を丸くしてから答えた。
「いや、英語とスペイン語だけだ」
「それなら私が通訳になります。ドイツ語にフランス語、なんでも出来ますから!」
 はこのときほど補助脳の語学ソフトをありがたく思ったことはなかった。糸口が見えた、いけるかもしれない。
「でもな、女性のあなたを連れて行くわけには……」
「男ならいいんですね! 待ってて!」
 ぱっと顔を明るくして、は部屋を飛び出した。
「なにする気だ? あの子」
 菊池が呟く横で尾栗は一人うきうきしている。
「なんか面白くなってきた」


「よし、どうしよ」
 自室に戻ったは右往左往しながら考えた。
「確かマロンちゃんがフォルム改造ソフトを入れたって……」
 自分が目やお尻が気に入らないと喚いたときに栗田がそう言っていたことを思い出した。フォルムを改造すれば外見だけでも男性になることが出来るかもしれない。さっそくは補助脳に働きかける。ぐにゅぐにゅと体をかき混ぜられる感覚がして、その後頭のてっぺんからつま先まで静電気のような電気信号が走り抜けた。
「気持ち悪い……」
 ちょっとした吐き気をもよおしながら、は自分の体を見て驚いた。ぶかぶかだったはずの作業着がぴったりになっている。手を見ると指の節が太くなっていて、腕も若干がっしりしている。
 そしては、最後に鏡を見た。
「うわ、すごい」
 目元は元のものに近いものの、髪は短く、完全に男性の顔になっている。自分に弟がいたらこんな感じかなとは想像した。
「声も、変えられるかな」
 意識すると『変えられるかな』の部分の少しトーンが落ちた。は歓声を上げて飛び上がった。
「私スパイになれちゃうかも」
 そう言って拳銃を構えるポーズをとってみる。うん、これはいける。
「やっぱりマロンちゃんって天才……」
 と感嘆のため息を漏らして、そんなことをしている場合ではないと気付いた。
「あ、戻らなきゃ」

 戻ってきた、というよりもやって来た男性を見て、五人は目を丸くした。
「え、誰?」
「松下です!」
 男の声でそう言うので、一同は声を上げて笑った。
「どうなってんの?」
 桃井がものすごい変貌振りのをじろじろ見た。尾栗はいまだに手を叩いて笑い転げている。
「特殊メイクです。えっと、兄が、映画製作のスタッフで……」
 200]の特殊メイクがどれだけ発達しているか知らないが、は取りあえず言い訳した。
「へえ、お兄さんが」
「けっこうそこら辺にあるもので出来ちゃうんですよ」
「いやあ見事なものだな」
 桃井も梅津艦長までが感心しきりだ。はほっと胸をなでおろしたが、その流されそうだった空気を若干青筋を立てた菊池がもとにもどした。
「特殊メイクが見事なのは分かったが、やはり連れて行くことはできないだろう」
「そんな!」
 は胸の前で両手の拳を握り締めて言った。その女性じみた仕草を男性の姿でやったため、菊池は眉をしかめ、尾栗はとうとう腹を抱えて笑い出した。
「尾栗さん、笑いすぎ!」
 と言う桃井も腹が痛そうだ。
「と、とにかく……」
 菊池が結論を言おうとしたときだった。それを遮って角松が、
「いいだろう。付いてきてくれ」
 と言い出したのである。これにはも驚いた。
「副長!」
 菊池の抗議を聞かず、角松は梅津に承諾を求めた。
「艦長、よろしいでしょうか」
 梅津は角松の目を探るように見てから、
「まあよかろう」
 と言って菊池にそれ以上反論させなかった。
「すぐに出発する。支度をしてくれ」
「は、はい!」
 それはにとってとてもラッキーで喜ばしい瞬間だったが、同時に身の引き締まる瞬間だった。

 

 

 

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